ドレスなデイトジャストからより自由なエクスプローラー2へ

2023.10.24
Written by 長谷川剛

文=長谷川 剛

時計好きに「あなたの時計、見せてください」と依頼するこの企画。今回は大手建設会社の設計部門を経て独立し、自らトータルリペア会社を興し、なかでも自動車のホイールリペアの達人として知られる大澄達郎さんにインタビュー。子供の頃からのメカに囲まれて育った機械系男子がたどりついた、ロレックスへの道筋をうかがった。

腕時計は父親の影響

「時計に馴染んだのは割りと早くて小学生低学年くらい。自分で手に入れたというより、完全に父親の影響ですね。カメラなど機械モノに興味を持つ父親であり、時計に関してもアレコレ自分なりに買い集めていました。僕が小学生に上がる頃は1960年代後半であり、セイコーやシチズンなどの国産時計が技術を伸ばしていた時代。親父は新製品が出るたびに買い替えていたので、使わなくなったモデルを僕が貰っていたのです」

カメラや時計もさることながら、大澄さんがメカ慣れしていく環境として、車の存在も実に大きかった。東京オリンピックが開催される直前に、日産ブルーバード(410)が実家に納車されたことで、家族のライフスタイルも一変したと当時を振り返る。

「もう、それからはどこへ行くにも自動車オンリー。家族のために購入した一台だったので、週末には奥多摩へ出掛けたり、ちょっとした旅行も電車ではなく皆で車に乗り込んで出掛けました。そして帰ってきたら必ず洗車。僕もその作業を手伝うことになり、当時はタイヤもリボン付きだったから、白い部分は洗剤を十分につけて、そしてホイールもしっかりピカピカにするなど、親父から指示を受けて洗っていましたね(笑)」

メカ好きの父親から受け継いだ時計は、当然ながら成人男性用のいわゆるビジネスモデル。子供の腕には少しばかり大袈裟だったことから、休日の特別なお洒落用として愛用していたという大澄少年。定期的にお下がりがもらえる立場のため、自分で時計を買う必要性がなく、その後に爆発的に流行ったGショッも購入することなく学生時代へと進んでいくことに。

トラッドスタイルにマッチしたグッチ

「自分で購入した時計として覚えているのが、大学生の頃に手に入れたグッチの時計。当時はトラッドスタイルが全盛であり、そういった着こなしに非常にマッチしたんです。しかも学生の簡単なアルバイトで手に入る金額であり、何かと都合が良かったのです(笑)。ボタンダウンシャツの袖先から半分くらい時計が露出する見せ方が当時の流儀であり、そういったチラ見せ的な使い方の場合、おとなしいルックスではアクセントになりづらい。当時のグッチの時計はファッション性を意識したシルバーとゴールドのコンビデザイン。非常に絶妙だったと思っています。完全に個人の主観ではありますが(笑)」

渋谷のセンター街などに思い思いのファッションと時計を身に着け出掛けていた学生時代。楽しかった時代を経たあとに、大手建設会社に就職する道を選んだ大澄さん。スーツスタイルで働く環境にシフトしつつも、社会人当初は新たに時計を買い足さなかったと話す。

「と言うのも、僕が配属された設計部門は普段からスーツスタイルが基本。しかしチェックのため建設現場にもことあるごとに赴きます。ヘルメットを被ってあちこち点検するなかで、どうしても腕が各所に当たってしまうもの。頻繁に時計が傷つくことを知り、ならば新調せずグッチのままでいいだろうとなりました(笑)」

しかし時を経て管理職へと昇進し、40代となった大澄さんは、現場に足を伸ばすことも減ったという。そんな自身へのご褒美も兼ねて、当時の自分に相応しい一本を本格的に探すことになったのである。

サブマリーナーが幅を利かす

「やはり大人になるとロレックスが自然と気になるものです(笑)。周囲を見れば、当時はサブマリーナー勢がかなり幅を利かせていました。しかし自分は海にも行かないし他人と被るのも気が進まないので、デイトジャストを選びました。ストライプ状のタペストリー文字盤はシンプルながらさり気なく個性的。着け心地も申し分ないので、長く使おうと思っていましたね」

長年、大手企業勤務をこなし地道に生きてきた大澄さん。ある時ふとその人生に疑問を抱き始めたと言う。そして、このままお決まりのコースを進んでいくよりも、もっと自分らしく自由に生きようと、思いきって脱サラを決意。若い頃にマイカーのホイールを修復した経験を思いだし、リペアを職業にすべく各種の見学会や講習等を経てライセンスを取得。現在は著名人も足しげく通うプロ・ホイールリペア職人として活躍中なのである。そうなると時計も控えめなドレスロレックスでは物足りなくなってしまうもの。現在のライフスタイルにマッチする一本を再び探すこととなったのである。

「ロレックス特有の定番的かつオールマイティーな要素は気に入っていました。ただデイトジャストなどより、もう少しスポーティなルックスでも良いのかなと。実際の購入のためうかがったショップでは、エクスプローラー1とかなり迷いました。しかし、当時新しく大きめにリニューアルしたエクスプローラー2に強く惹かれました。と言うのも、エクスプローラー1は街を歩いていてもかなりの頻度で見掛ける人気モデル。他人と被るのがイヤな自分はマイナーな方をチョイスしたというワケです。とは言えリセールを軸に考えるとエクスプローラー1の方が魅力的と言う人も多く、今、ちょっとだけ揺らいでいます(笑)」

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長谷川剛

長谷川剛

1969年東京都生まれ。エムパイヤスネークビルディングに所属し、『asAyan』の編集に携わる。その後(有)イーターに移籍し『asAyan』『メンズクラブ』などを編集。98年からフリー。『ホットドッグプレス』『ポパイ』等の制作に関わる。2001年トランスワールドジャパンに所属し雑誌『HYBRID』『Warp』の編集に携わる。02年フリーとなり、メンズのファッション記事、カタログ製作を中心とする編集ライターとして活動。04年、エディトリアルチーム「04(zeroyon)」を結成。19年、クリエイターオフィス「テーブルロック」に移籍。アパレル関係に加え時計方面の制作も本格化。

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