服と時計のバランスで選んだIWC『ポルトギーゼ』。20本以上試して残った1本

2025.06.12
Written by 編集部

「あなたの時計、見せてください」は、腕時計に魅せられた人々の時計遍歴と思い出をたどる企画。今回は、モーターホーム株式会社を立ち上げ“opportunity creator”として活動する髙野 一朗(たかの いちろう)さんに話を伺った。アパレル業界での経験を活かし、現在はアパレル企業を中心にリテール全般のマーケティング支援や新規事業の立ち上げに携わるなど、領域を横断する形で多彩なプロジェクトに関わっている。

「好きな人たちに囲まれて、日々を満喫できるように過ごすことを意識しています」と話す髙野さん。そんな彼の腕には、思い入れの詰まったヴィンテージ腕時計がある。

1年かけて探し当てた、IWCの『ポルトギーゼ・オートマティック』

「初めて“時計が欲しい”と思ったのは8歳のとき。父が誕生日に買ってくれた、アントニオ猪木モチーフのゲーム機能付き腕時計です」

プロレス好きだった少年時代、池袋のビックカメラで父と二人きりで買い物に出かけた記憶が、時計以上に印象に残っているという。三兄弟の長男として、普段は家族単位で動くことが多かったからこそ、父親と二人だけで過ごした特別な時間が心に残っているのだろう。

現在、髙野さんが「一番思い入れがある」と語るのが、IWCの『ポルトギーゼ・オートマティック』。この1本は、かつて所有していたROLEXやTUDORを手放してでも手に入れたかった時計だ。

IWC『ポルトギーゼ・オートマティック』

「気に入った状態のものを探すのに1年ほどかかりました。ブルーの文字盤と7日間のパワーリザーブが気に入っているポイントです。革巻きのベルトはオンオフを問わずに使えて、人ともあまり被らないので、人生で一番長く使っている時計ですね」

シンプルで落ち着いたデザインの中に、確かな存在感を宿すIWCの『ポルトギーゼ』。まさに「華美ではないが、ちょっとした主張があるものが好き」という髙野さんの時計観を体現した1本だ。

ヴィンテージ腕時計との出会いは仕事から

「ヴィンテージ時計に興味を持つようになったのは、以前勤めていた会社にアンティークやヴィンテージ時計を扱う部門があったことがきっかけです」

当時は、ROLEXやTUDORの掘り出し物を見つける楽しさに惹かれていたという。学生時代にはSWATCHやG-SHOCKにもハマっており、これまでに手にしてきた時計は20本以上にのぼる。

中でも印象に残っているのは、1970〜1980年代製のTUDOR『RANGER II』だ。「防水性が高く、多少の傷も気にならない無骨さが気に入っています。サイズの割に重さがあるところも魅力的で、ブレスレットのように使っていました」

TUDOR『RANGER II』

ブランドやモデルにとらわれず、機能性と独自性を重視する視点は、アパレル業界で培った審美眼とリンクしているように感じられる。

時計は自分を表現する“スイッチ”のようなもの

「時計を選ぶときは、その日に会う人や予定をイメージしながら、コーディネートの軸にしていました。時計によって行動が変わることもあったと思います」

ハマっていた時期には、時間を確認するというより、ジュエリーやアクセサリーのように“身につける意味”を大切にしていたという髙野さん。現在は、冠婚葬祭など特別な場面で身につけることが中心になっているそうだが、「少しずつ“相手に対する印象を変えたい時”に身につける機会を増やしたい」とも話す。

仕事やライフスタイルの変化に合わせて、時計との付き合い方も変化していく。だが、そこに込められる思いは変わらない。

「ヴィンテージ腕時計は、現在時刻だけでなく、過去の記憶や未来への期待など、時空を超えて自分を表現できるものだと、このインタビューを通じて改めて感じました」

記憶や感情を内包しながら時を刻むヴィンテージ腕時計。単なる道具ではなく、持ち主の生き方や価値観を映し出す存在ではないだろうか。

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