セイコー プレスマチック Cal.5106/5146 ハイビート薄型自動巻き解説
1960年代後半、グランドセイコーが精度の頂点を目指し、キングセイコーが亀戸の技術力を示す中、セイコーは薄型自動巻きドレスウォッチという第三の道を模索していました。その答えが「プレスマチック」(PRESMATIC)です。
セイコーマチック-P(Seikomatic-P)の後継として1968年に登場したプレスマチックは、Cal.5106A(33石)からCal.5146A(28,800振動/時のハイビート)へと進化。リューズ中央のプッシュボタンで日付を早送りする「プレス式」クイックセット機構を備え、薄型ケースにドレスウォッチとしての品格を兼ね備えました。
製造期間わずか約2〜3年という短命ゆえに知名度は低いものの、希少性とケースバリエーションの豊富さが静かに評価されています。この記事では、キャリバー仕様、モデル展開、セイコーラインナップにおける位置づけを解説します。

プレスマチックとは何か。セイコーマチック-Pから受け継いだ「プレス式」
セイコーマチック-Pからプレスマチックへ
「PRESMATIC」の名称は「Press」(押す)+「Automatic」(自動巻き)の造語です。リューズ中央の六角形プッシュボタンを押して日付を早送りする「プレス式クイックセット」が最大の特徴であり、名前の由来でもあります。
前身の「セイコーマチック-P」(1967年、Cal.5106A搭載)がこの機構を導入し、1968年にプレスマチックへ改称。さらに1969年にはハイビートCal.5146Aを搭載するモデルへと発展しました。
「プレス式」クイックセットの操作
| 操作 | 方法 |
| 時刻合わせ | リューズを引いて回す(通常の操作) |
| 日付の早送り | リューズ中央の六角形ボタンを押す |
| 曜日の変更 | リューズを回して24時をまたぐ |
ボタンを押すだけでカチカチと日付が進むこの機構は、当時としては先進的なものでした。
セイコーのラインナップにおけるプレスマチックの位置づけ
1960年代後半のセイコーヒエラルキー
| ライン | Cal. | 振動数 | 位置づけ |
| グランドセイコー | Cal.6145/6146 | 36,000振動/時 | 最高峰 |
| キングセイコー | Cal.5626 | 28,800振動/時 | 上位機 |
| ロードマーベル | Cal.5740C | 36,000振動/時 | 高級手巻き |
| プレスマチック(HB) | Cal.5146A | 28,800振動/時 | 薄型自動巻きドレスウォッチ |
| プレスマチック | Cal.5106A | 19,800振動/時 | 薄型自動巻き |
| ロードマチック | Cal.5606 | 21,600振動/時 | 中級機 |
プレスマチックはロードマーベル(手巻き)とロードマチック(自動巻き)の間に位置し、薄さと上品さを重視したビジネスマン向けの自動巻きドレスウォッチです。ハイビート版のCal.5146Aはキングセイコーと同等の28,800振動/時を実現しており、精度面でも高いポテンシャルを備えていました。
Cal.5106AとCal.5146A:2つのキャリバーの違い
Cal.5106A(1967〜1969年)
| 項目 | 仕様 |
| 石数 | 33石 |
| 振動数 | 19,800振動/時(5.5振動) |
| 巻き上げ | 自動巻き+手巻き |
| 秒停止機能 | あり(ハック機能) |
| カレンダー | デイデイト(日付+曜日) |
| 日付早送り | プッシュ式(リューズ中央ボタン) |
セイコーマチック-Pに搭載されたオリジナルキャリバーです。33石の多石仕様でムーブメント各部に人工ルビーが配され、摩擦低減による精度安定性を狙った設計です。手巻き機能とハック機能を備え、瞬間日送り(インスタントデイトチェンジ)機構により午前0時に日付が瞬時に切り替わります。
Cal.5146A(1969〜1970年)
| 項目 | 仕様 |
| 石数 | 27石 または 30石 |
| 振動数 | 28,800振動/時(8振動) |
| 巻き上げ | 自動巻き+手巻き |
| 秒停止機能 | あり(ハック機能) |
| 精度調整 | マイクロレギュレーター搭載 |
Cal.5106Aの後継ハイビートキャリバーです。振動数が28,800振動/時へと向上し精度が改善されました。石数は27〜30石とCal.5106Aより少ないですが、ハイビート化に伴う設計最適化の結果です。マイクロレギュレーターによる精密な精度調整が可能で、ボールベアリング式の自動巻き機構を備えています。
2つのキャリバーの比較
| 比較項目 | Cal.5106A | Cal.5146A |
| 製造期間 | 1967〜1969年 | 1969〜1970年 |
| 石数 | 33石 | 27〜30石 |
| 振動数 | 19,800振動/時 | 28,800振動/時 |
| 精度調整 | 標準 | マイクロレギュレーター |

リファレンス別ガイド:プレスマチックのケースバリエーション
セイコーマチック-P期(Cal.5106A搭載、1967〜1968年)
Ref.5106-7000 / 7010 / 8010
セイコーマチック-Pの基本リファレンス群。ラウンドケース(約35〜36mm)にシルバーやブルー系のダイヤルを組み合わせ、プッシュリューズによる日付早送りを導入した最初のモデルです。Ref.5106-8010はやや角張ったケースラインが特徴です。
Ref.5106-9000
セイコーマチック-Pからプレスマチックへの過渡期に位置するリファレンス。文字盤に「PRESMATIC」の表記が入ります。
プレスマチック ハイビート期(Cal.5146A搭載、1969〜1970年)
製造期間わずか約1年のハイビートモデル。すべてのバリエーションが希少です。
Ref.5146-7000
基本リファレンス。ラウンドケースにシルバーまたはネイビーブルーの文字盤を組み合わせたモデルです。
Ref.5146-5000系(5000 / 5001 / 5011 / 5021)
スクエア(角型)〜縦長のケースデザイン。ホワイト、ブラック、ネイビーブルーなどのダイヤルが展開されました。
Ref.5146-7060 / 7090
Ref.7060はラウンドケースの純正ブレスレット付き。Ref.7090はCライン(C字型の曲線的なケースライン)にリネンダイヤルを組み合わせた洗練されたモデルです。
Ref.5146-7050
NSP(非ステンレス)ケースにステンレス裏蓋の金色モデル。上位バリエーションとして展開されました。
デザイン的特徴
ダイヤルバリエーション
| 文字盤タイプ | 特徴 |
| シルバーサンバースト | 放射状の仕上げ。最もスタンダード |
| ネイビーブルー | 深みのある青。ビジネスシーンに映える |
| リネン(布目模様) | 細かい布目状テクスチャー。上品な質感 |
| ホワイト / ブラック | シンプルで汎用性が高い |
外観上の識別ポイント
プレスマチックのケース厚は約9〜10.5mmで、同時代の自動巻きモデルとしては薄型です。リューズ中央の六角形プッシュボタンがプレスマチック最大の外観上の識別ポイントで、この小さなボタンがプレス式クイックセットの操作部です。
Cal.5146A搭載モデルでは文字盤に「HI-BEAT」の表記があり、表記がないモデルはCal.5106Aのロービート仕様です。

プレスマチックの選び方:3つのポイント
ポイント1:キャリバーで選ぶ
| Cal. | おすすめの人 |
| Cal.5106A(33石、ロービート) | 多石ムーブメントに魅力を感じる方。製造期間がやや長く入手しやすい |
| Cal.5146A(27〜30石、ハイビート) | 精度を重視する方。製造期間約1年の希少モデル |
Cal.5146Aは製造期間が短く希少性が高い一方、Cal.5106Aは33石ムーブメントの美しさが魅力です。
ポイント2:ケース形状で選ぶ
ビジネスシーンにはラウンドケース(Ref.5146-7000系)が汎用性が高く、個性を求めるならCラインのRef.5146-7090やスクエア系が他人と被りにくい選択です。
ポイント3:プッシュボタンの動作確認
プレス式日付早送り機構が正常に動作するかが重要な確認ポイントです。六角形ボタンを押してカチッと日付が送られるか、ボタンの戻りはスムーズかを確認しましょう。
こんな方におすすめしたい
グランドセイコーやキングセイコー以外のヴィンテージセイコーに興味がある方
プレスマチックはグランドセイコーやキングセイコーの陰に隠れがちですが、独自のプレス式クイックセット機構と薄型ケースを持つシリーズです。人と被りにくいヴィンテージセイコーを探している方に適しています。
薄型ドレスウォッチとしてのヴィンテージセイコーを探している方
プレスマチックのケース厚は約9〜10.5mmと、同時代の自動巻きモデルとしては薄型です。ビジネスシーンで使えるヴィンテージドレスウォッチを求める方に適したモデルです。
ケースバリエーションの違いを楽しみたい方
ラウンド、スクエア、Cラインなど多彩なケース形状が存在し、文字盤もシルバーサンバースト、ネイビーブルー、リネンなどバリエーションが豊富です。形状や文字盤の違いでコレクションする楽しみがあります。
プレスマチックに関するよくある質問
Q. プレスマチックとセイコーマチック-Pの違いは何ですか?
A. セイコーマチック-P(1967年)がプレスマチック(1968年〜)に名称変更されたもので、基本機構は共通です。文字盤の表記が「SEIKOMATIC-P」から「PRESMATIC」に変わり、1969年からはハイビートのCal.5146A搭載モデルが追加されました。
Q. プレスマチックはなぜ製造期間が短かったのですか?
A. セイコーが新開発のCal.56系ムーブメントを投入し、ロードマチック/ロードマチックスペシャルへとラインナップを再編したためです。プレスマチックの役割はロードマチックスペシャル(Cal.5206/5216、28,800振動/時)に引き継がれました。
まとめ:プレスマチックは「忘れられた薄型ドレスウォッチ」
セイコー プレスマチックは、グランドセイコーやキングセイコーの陰に隠れがちですが、1960年代後半のセイコーが薄型自動巻きドレスウォッチとして本気で設計したシリーズです。Cal.5106Aの33石ムーブメント、Cal.5146Aのハイビート、そしてリューズ中央の六角形プッシュボタンによる独自の日付早送り――短い製造期間ゆえの希少性と、多彩なケースバリエーションを持つプレスマチックは、ヴィンテージセイコーの「知る人ぞ知る」薄型ドレスウォッチです。
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