店舗デザイナーに聞く FIRE KIDSはここが変わった! 2/2 繁盛店デザインの方程式 ディテール編

2022.08.19
Written by 鈴木 文彦

2022年3月26日(土)。FIRE KIDSは店舗を一新した。いじっていない場所はない、と言えるほどの大改造が実行されたにもかかわらず、FIRE KIDSに馴染みのある人には変わらぬFIRE KIDSらしさと居心地のよさがある。そして、そこには、時計探しをもっと楽しくするための、さまざまなアイデアが詰め込まれていた。プロジェクトを担当した『やまもデザインラボ』の空間デザイナー 山本成子さんに聞いた。

広くする

「以前のFIRE KIDSは、店内に入るとすぐにカウンターがあって、滞在するにはちょっと、棚のサイズなどのバランスが良くなかったんです」

リニューアル前のFIRE KIDS。お店に入るとすぐに大きなカウンターがあった

と山本成子さんはかつてのFIRE KIDSの写真を見せながら説明してくれた。ああ、たしかに、こんな雰囲気だった。いまの店舗を体験してしまうと、ここが以前と同じスペースしかないことが意外におもえてくるほど広々とした。

「使える面積自体は同じなのですが、そのなかで、より広々と感じてもらえるような工夫をしています。扉や通路側のショーケース、カウンターや机、棚は、バランスのよいサイズで作り直し、位置も変えています」

店内が広々として、スタッフがお客さんと棚の前に並んで、時計の話をすることも可能になった。さらには、ソファを置くスペースまで誕生した。

実際、取材時も、お客さんがひとり、ソファに座って、時計を手にとって、買ってしまおうかどうしようかを長時間、悩んでいた。

そしてそのお客さんは最終的にはその時計を買っていったのだけれど、この店舗には、そんな時計が欲しくなるギミックがソファ以外にもいくつかある。

大きな鏡

ギミックその1が、大きな鏡だ。

カウンターの横にあるものなのだけれど、この鏡は物置の扉についている。

扉をあけると、その中には、さらに収納があって、そこに、商品、書類、備品、スタッフの私物など、大事なものがキレイにしまわれている。これによって店内がものでごちゃごちゃしない。さらに、扉を開けることで、鏡はソファの方を向き、大きな姿見となるのだ。

お客さんは、時計をした自分の姿を見ることができる。買おうかどうしようか悩んでいるとき、その時計をした自分の姿が見えるか見えないかは、決断を大きく左右する。なぜこれが以前はなかったのか、というほどに、あって然るべきものにおもえる。

さらに鏡は、空間を実際以上に広々と見せてくれる。

広くはないFIRE KIDS店内で、結構大きなスペースをとっているものだけれど、マルチな役割を果たしているのだ。

柔和な光

ギミックその2は光だ。

「FIRE KIDSはジュエリーショップやブランドショップのような、かしこまってカッコつけたお店ではないとおもいます。味があって、店員との話が楽しくて、長居したくなるお店。だから光の色合いも、強烈なものにはしていません。いろいろなお店を見ていておもったのですが、あまり真っ白い光で時計を照らしてしまうと、時計が平べったく、安っぽく見えてしまうんです。アンティークウォッチならなおさら、その深みが出ないようにおもいました」

とはいえ、暗くて時計がよく見えないのもNG。時計はしっかり、はっきりと見えるべき。そのため店内は以前よりずっと明るくなっている。そして、棚にも、光源が仕込んであって、棚に陳列している時計ひとつひとつがはっきりと見えるようになっている。

「以前は鈴木さんが見つけてきた古物の書棚を陳列棚として使っていたんです。それには照明は組み込まれていませんでしたし、高さも時計にあっていなかったんです」

現在の棚は、山本さんデザインのオーダーメイド。この棚は、工夫の宝庫だ。

陳列棚のデザイン

FIRE KIDS店内にある3つの棚は、照明だけでなく、棚のサイズにも工夫がある。時計がひとつひとつちゃんと見えながら、ひとつの棚に、より多くの時計を置けるよう、高さや幅、奥行きはcm単位で店内の空間を無駄なく使い切れるように設計されているのだ。

棚が壁面に対してずっとまっすぐだと、一番下の段はどうしても時計が見えづらくなってしまうから、最下段はL字にして、平置きの台にしているのも注目点。この平置きの台の下は収納スペース。ここにも荷物を隠しておける。

差し色に金が使われているのもポイント。

「一般的には金属色は銀色が使われているところが多いのですが、FIRE KIDSの内装の金属はすべて金色です。FIRE KIDSは、樹脂は使っておらず、木に見えるもの、金属に見えるものは、すべて本物の木、金属です。照明の色合いとマッチする色にしているんです」

カウンター裏の階段の横に取り付けられている手すりも金色。ねじった金属の棒、というのは既製品がなく、これも特注品

棚のなかで時計を立たせて置いているのも、他所ではあまりみかけない陳列方法だという。

「金属ブレスレットの時計はC型のリングに、レザーやウレタンバンドの時計は、縦に長い台座を使っています。ベルトまでしっかり見せる陳列をしている時計店はあまりないとおもいます」

こうすることで、棚の奥行きを利用して、同じ陳列スペースにより多くの時計を置ける、という利点も生まれている。集合写真で、前列の人は座って写真に映る、とか、ジグザグに並ぶ、みたいな並び方だ。

「FIRE KIDSはもともと、鈴木さんの趣味のおもちゃや雑誌の切り抜きなども飾られていて、その中から、好みの時計を見つける、宝探しのようなワクワク感がありましたよね。その感覚はリニューアルをしても残したかったんです。一つの棚に多くの時計を置けるようにしたことにはそんな意図もあります」

そして、値札にも注目して欲しい。

「FIRE KIDSでは、大まかには同じ時計でも、年式や状態、細かな仕様によって値段が変わりますし、新品の時計店ではないですから、同じ時計がいくつも在庫であるということはありません。つまり値札はひとつひとつの商品ごとに必要で再利用できず、書くべき情報量は多くなりがちなのです」

そのため、簡単に作れて、入れ替えが容易で、シンプルに必要な情報を伝えられる値札のデザインが必要だった。

「インターネットでも時計を販売していますから、ネットの情報と、店舗の情報が同じでなくてはいけないですし、違和感がないようにしなくてはいけません。ネットで見て、お店に実物を見に来る方が「あ、この時計だ」とすぐわかるように。ここは、スタッフの中根さんとも、何度もいろいろなパターンを試しました」

そんなところまで内装のデザイナーさんの仕事なんですか?

「人によりますが、そこまでやる方は多くないんじゃないかな?とおもいます。FIRE KIDSのプロジェクトではPOPやスタンド、陳列方法などにもこだわってデザインしています」

山本さんは、FIRE KIDSブランドのトータルコーディネーターなのだ。

作業机

もうひとつ、注目してほしいのは、カウンターの向こうの作業机。古くからのFIRE KIDSファンにとっては、おなじみの風景ではないだろうか

もちろん、ここで本格的な時計修理をするわけではないけれど、いかにも職人の仕事場、といった雰囲気を醸し出している。

以前の作業机。こうして見ると今と昔では全然違う

とはいえ、これがあると結構なスペースを食われてしまう。いっそリニューアルでこれをなくしてしまおう、とはおもわなかったのだろうか?

「そこは悩みました。やはり優先すべきはお客さんが快適にすごせる空間、そして商品の陳列スペースです。とはいえ、FIRE KIDSはただ、物を売ればそれでいいのではなくて、時計好きが集う場所です。例えば、靴や鞄の修理職人のお店、ヨーロッパの楽器工房、そんな雰囲気は残しておきたかったんです。修理で持ち込まれた時計を、お客さんから見えない二階の作業スペースや、修理工房にすぐに持っていってしまうのではなく、お客さんの目の前で、一緒に見られる簡単な作業スペース、スタッフのちょっとした仕事場は、お店と同じ空間にあるべきだとおもいました」

その判断、ライターとしてFIRE KIDSに関わりながら、いまやお客さんにもなってしまった筆者は大賛成だ。みなさんはどうおもうだろうか?

店を育てる

最後に、山本成子さんに空間デザイナーとはどんな存在なのかを聞いてみた。

「小規模な組織の経営者さんは本当に多才です。商品の仕入れ、販売はもちろん、人事、経理、店舗のデザインなど、なんでもひとりで出来てしまいますよね。ただ、お金の管理でいえば、それでも税理士さんがいてくれたほうが、より確実なように、 自分で何でもやるよりもその道のスペシャリストと一緒にやったほうが、より良い仕事ができる。お店はお客様を迎える、大切な場所です。そのお客様の体験をよりよいものにする、より、お店が目指す体験に近いものにするために、デザイナーを選んで、相談してほしいですね」

リニューアルして、これまでお店に入ってこなかった人も、気楽に入れるお店になったという。そして、FIRE KIDSの店舗は、木、金属といった使い込むことで味が出る素材でつくられている。使えば使うほど、味が出て、愛着がわくのは、アンティークウォッチと同じだ。

FIRE KIDSは、まだ、リニューアルが終わってから半年も経っていない、ピカピカな状態。

もし、あなたが、インターネットでしか、FIRE KIDSを体験していないのだとしたら、まだ、リニューアルした店舗を訪れていないのだとしたら、ぜひ、お店に足を運んで、そこに味を加えてみて欲しい。月日が経ったとき、あなたの痕跡は、この店にとって掛け替えのないコーポレートアイデンティティとなるかもしれない。

writer

鈴木 文彦

鈴木 文彦

東京都出身。フランス パリ第四大学の博士課程にて、19世紀フランス文学を研究。翻訳家、ライターとしても活動し、帰国後は、編集のほか、食品のマーケティングにも携わる。2017年より、ワインと食のライフスタイル誌『WINE WHAT』を出版するLUFTメディアコミュニケーションの代表取締役。2021年に独立し、現在はビジネス系ライフスタイルメディア『JBpress autograph』の編集長を務める。趣味はワインとパソコンいじり。好きな時計はセイコー ブラックボーイこと『SKX007』。

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