【オーナーインタビュー】 この時計とは“出合い”。いわゆるロレックスっぽさが、まったくないんです
文=土田貴史
時計好きに「あなたの時計、見せてください」という企画。今回、時計を見せてもらったのは、鈴木 敦(あつし)さん。東京、そして上海に人気のバーを複数持つTHE SG GROUPのマネージャーを経て、2018年にBellwood Experiment Inc.を設立し、東京・渋谷ににあるバー「The Bellwood」を運営する業界人だ。もともと古いものに興味があった鈴木さんは今年、2本のヴィンテージウオッチのオーナーになった。
SNSの情報を頼りに、ファイアーキッズ中野ブロードウェイ店へ
「最初からヴィンテージウオッチに興味があったんです。ただ仕事柄、常に水を使う職業なので、腕にまつわるものって普段から身につけないんですけれども」
そう話すのは、鈴木 敦(あつし)さん。今年、40歳の誕生日を機に、自分自身に記念のプレゼントを贈ろうと思い立ち、SNSで調べていくうちにファイアーキッズに行き着いたそうだ。
「僕の周りの知り合いとかも、ファイアーキッズのインスタをフォローしていたのを見て、早速、中野ブロードウェイのお店に行きました」
鈴木さんのバー「The Bellwood」は、大正時代の特殊喫茶がコンセプト。古き良き時代の設えは、まるで空間ごとタイムスリップしたかのような錯覚を覚える。そこには時代を経ても色褪せない、芯の通ったデザインの心地良さが展開されていた。そんな鈴木さんだからこそ、時計を購入しようとしても現行品ではなく、ヴィンテージに惹かれたのだろう。
鈴木さんは、店頭でロレックス「オイスター」に目が止まる。それはまさしく“出合い”だった。ひと目見て「うん、これだ」と思ったそうだ。
「じつはカルティエの『タンク』が目当てで、店を訪れたんです。少なくともロレックスじゃないなと思ってました(笑)。僕は大きな時計よりも、小振りなものの方がいいし、周りでロレックスを着けている人が多いから、やっぱり他人と違うものがいいとも考えていた。ところが、このモデルはめちゃくちゃカッコいい! いわゆるスポーツモデルのようなロレックスっぽさが、まったくないんです」
手巻きのムーブメントも、鈴木さんにとっては好都合だった。
「リュウズを回したいじゃないですか。そのほうが、愛着が湧きます。朝起きて、身につける前に、一回、時計と会話する感じで、じゃあ今日もやっていこうみたいな」
職人だからこそ感じるものがある
このモデルは1945年頃に製造されたロレックス「オイスター プレシジョン」。ロレックスがCOSCを通さず、自社基準で精度を担保したモデルである。“Precision”(精度)と銘打たれているのはそのためだ。
「それもいい。公式機関でお墨付きをもらうのではなく、自分たちで基準を設けて、自信を持って世の中に提示する。僕自身も職人ですから、胸にグッとくるものがありました」
現行品に比べて、だいぶ小振りだが、それも鈴木さんの雰囲気にあっている。時計が悪目立ちせず、袖元が品良く見えるのだ。ひと頃のデカ厚流行りも今ではすっかり陰を潜め、現行品も小型化が進んでいる。
「なんか昔の正装している人って、写真で見ると腕時計はやっぱり小振りで。そういうサラッと着けこなす感じがいいですね。時計に“着けられている”のではなく、時計を“着けている”感じが、僕のなかでは理想だった」
というわけで、鈴木さんのお気に入りとなったロレックスだが、すぐに2本目のカルティエ「タンク」を購入することに……。その経緯はこうだ。購入してすぐに、ロレックスがあいにくの機械不良で、止まってしまう。すぐさま店に持ち込むと、2カ月程度の修理メンテナンスが確定。せっかく時計を身につける習慣が付き始めたこともあり、「急に寂しくなるな」と、鈴木さん。そんなタイミングで、ちょうどまだオンラインにも掲出していない、入荷したての「マストタンク」と出合ってしまったそうだ。
「即決でしたね。もともと欲しいと思っていたものでしたし、ロレックスがシルバー色に対して、タンクはイエローゴールド色。シーンによって使い分けられて、どちらもすごく気に入っています」
鈴木さんは、この2本のワードローブを保有していることに大きな優越感を感じている。数十年前の機械を、サラッと腕に着けていることが、最高に気分を盛り上げてくれるそうだ。
「カクテル文化も、1800年代後半に日本に紹介され、その後、脈々と続いています。そういうカルチャーを、バーテンダーとして大切にしながら、次の世代に繋いでいく仕事をしていきたいんです」
そう語る鈴木さんの日常を、これからはこの2本の腕時計が支えていく。丁寧な日常を紡いでいく鈴木さんの暮らしぶりが、目に浮かぶようである。
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